研究


ニューラルネットワーク・群知能・遺伝的アルゴリズムなど,多くの生物由来の情報処理モデルが考案されている.
ニューラルネットワークでは,個々のニューロンの単純な情報処理によって知覚・記憶・学習・推論・言語等の機能そして意識が生み出されている.
また,群れの構成員である個体は局所的なルールで運動しているが,群れ全体は秩序だった何らかの目的を持っている振る舞いをしているように見えることがある.
このような単純な要素が相互に情報を共有することで高度な情報処理を行う現象は極めて興味深い.
本研究室では,このような生物の行っている情報処理を模倣したモデルについての研究を行ってきた.
現在は,群知能の研究を進めている.


研究テーマ

  1. 離散DSCモデルによるクラスタ分析

    C.Raynoldsによる人工生命シミュレーションプログラムboidを,C. Veenhuis とM. Koppen はクラスタ分析に応用し,Date Swarm Clustering (DSC) modelを考案した.
    DSCモデルでは,生物個体にみたてたboidにクラスタ分析を行いたいデータオブジェクトを付与し,それをdatoidと呼ぶ.
    類似データを持つdatoid同士が群れをなすことで,クラスタが形成される.
    DSCモデルでは,形成されるクラスタが1点に収束してしまうため,クラスタ内のデータオブジェクトの隣接関係を調べることができない.
    そこで,このDSCモデルでのデータであるdatoidが格子状の離散空間で運動できるようにdatoidの運動ルールを改良した. それを離散DSCモデル,その個体を離散datoidと呼ぶ.
    一般にオブジェクトの特徴空間は高次元であり,それを低次元空間にマップすることで,高次元特徴空間のオブジェクトの類似関係を視覚化させることができる.
    高次元のオブジェクトの位相を,完全ではないが低次元マップ空間に保存することが研究目的である.

    UC Irvine Machine Learning Repositoryで提供されているパターン分類のタスクのためのIrisデータセットを用いて,離散DSCでクラスタ分析を行った結果を図に示す.
    有名なIrisデータセットは,3種類のIrisの花の特徴を4つの特徴量で表し,各種50個の特徴ベクトルからなる.
    初期に2次元格子上にランダムに配置した離散datoidを離散DSCモデルで2000ステップまで運動させた後の離散datoidの分布の拡大図である.2つのクラスタが形成されていることが分かる. 図中で色付けられたセルが離散datoidであり,類似した色が隣接している様子がわかる.特定の1つのデータからの類似度の大きさを色で表している.


    【上図】SwithRollデータセットと呼ばれる3次元特徴空間上にロールケーキのように分布した点の散布図.
    【下図】上図のデータオブジェクトを離散DSCモデルでクラスタ分析した結果のマップ.
  2. 粒子群最適化法(PSO)


    (Makio Izumi and Toshiya Iwai, Artificial Life and Robotics, Vol.25, No.2, 258-263(2020).)
    PSOとは,J. KennedyとR. Eberhartにより考案された群知能に基づく最適化問題に対するメタヒューリスティックス.
    複数の解候補である粒子が情報を共有しながら解を探索する.
    研究目的は,PSOの探索性能の数値的解析等を通して,局所および大域探索性能のバランスの良い改良手法の提案である.

    PSOを用いてSchwefel関数の最小値問題の解を探索している過程を示している(tは繰り返しステップ).
    図中の白丸が粒子であり,背景の寒色の位置で関数値が低く,暖色の位置で関数値が高い.
    関数の最小値は図の右上の境界付近にあり,ところどころに極小値を持つが,粒子は徐々に解に収束している.
  3. 脳・神経系における情報伝達


    海馬CA1錐体細胞をモデル化したマルチコンパートメントモデル
    (伊藤幸祐,佐藤春夫,岩井俊哉,電子情報通信学会論文誌D,J96-D3, 723-732(2013).)
  4. カオスニューラルネットワーク


    合原ニューロンを構成要素とする自己想起型カオスニューラルネットワークでは,記憶パターンを想起して巡る動的状態がみられる.
    私たちは,記憶させたパターン間の相関に依存して多彩な動的状態が出現することを確認した.
    (Toshiya Iwai, Fuminari Matsuzaki, Jousuke Kuroiwa and Shogo Miyake, Physica D, Vol.212, No.3-4, 184-194(2005).)
    その複数の動的状態を利用し,自己想起型カオスニューラルネットワークのパラメータを時間依存させることで,
    提示されたパターンが記憶しているパターンに類似していればそれを想起し,未知のパターンであればカオス的に記憶パターン
    の想起を巡らせる記憶探索モデルを考案した.これは,C.SkardaとW. J. Freemanのラットの臭い応答実験のトイモデルである.
    (海老原智哉,岩井俊哉,情報処理学会論文誌 数理モデル化と応用,Vol.4,No.5,110-121(2011).)



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