[研究の背景]
神経回路網による脳の自己組織化の問題に取り組み始めた。脳は今までの科学研 究で取り残された重要問題の一つでもあり、老齢による痴呆、精神病、薬物中毒などに対する治 療の研究上の対象でもあり、またノイマン型コンピュータとは全く異なる原理で動く知的情報処 理系であり、哲学や認知科学てきには人間の心の座として究極の興味を持たれてきた。 米国では1990年にブッシュ大統領が脳の研究の重要性を認識して、1990年から199 9までの10年間を”脳の10年”と宣言して、官民挙げて脳の研究推進を行なうことになった。 これからの10年を脳の研究の一区切りとして、さらに次の21世紀脳の研究につなげようとい うものであった。その後ヨーロッパでも、”ヨーロッパの脳の10年”の宣言がなされ、日本で は1993年に”脳の世紀”という民間レベルでの運動が始められた。
[研究テーマ]
我々は1988年に、神経回路網の自己組織化ということで、大脳の一次視覚野における方位 選択性の形成の研究に取り組み始めた。一次視覚野はこれまで神経生理学的に良く調べられてお り、その結果の説明が脳の数理的な研究の突破口になる可能性がある。 脳の一次視覚野には、傾いた棒状パターンの傾き角に選択的に反応するニューロンがぢたい連 続的に配置されていることが Hubel & Wiesel によって発見され、最近はBlandel等により光学記録による詳細な皮質写像が見出されている。これに対して神経回路 網の数理モデルを構築し、その自己組織化による方位選択性の形成をコンピュータシミュレーションにより研究しようとするものである。